セルフメディケーション シリーズ 対談:小児糖尿病と食事療法

セルフメディケーション シリーズ 対談:小児糖尿病と食事療法

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連載Vol.2 従来の食事制限を変えた「カーボカウント」との出合い

川村 智行 氏(小児科医、医学博士)

連載Vol.2 従来の食事制限を変えた「カーボカウント」との出合い

池田
先生が行っているカーボカウントは、ダイエットでよく耳にする糖質制限とは違いますよね。まだカーボカウントを知らない薬剤師の方もいらっしゃると思いますので、簡単に教えていただけますか?
川村
カーボカウントは、食事に含まれる炭水化物の量を計算し、血糖をコントロールする食事療法のことです。炭水化物が血糖値を上げ、それによってインスリンが分泌されます。炭水化物の量が血糖に大きな影響を与えることから、糖質そのものの食べる量を減らすのが糖質制限食ですが、そもそも1型糖尿病の場合は、それまでの食生活が原因で病気になるわけではありません。ですから食生活を改めるというよりは、血糖値が上がらないように調整するというアプローチになります。そこで、食事ごとの炭水化物量を計算し、インスリンの量を調節するのがカーボカウントなのです。糖質量を制限するのとは違います。
池田
カーボカウントはもともと海外からスタートしたそうですね。
川村
はい、欧米ですね。私がカーボカウントに興味を持つきっかけになった出来事があります。日本糖尿病協会が毎年主催している、1型糖尿病の子どもたちを対象にしたサマーキャンプに参加しているのですが、以前、長野県へスキーキャンプに行った時のこと、ホテルの夕食が、好きなものを取って食べるビュッフェスタイルでした。
それまでキャンプでは、決めたカロリーの食事を提供していました。しかしその時だけ「好きに食べていいよ」と子どもたちに声をかけたんです。すると子どもたちがデザートコーナーに突進したんですよ。今まで彼らは決められたものしか食べられず、ずっと我慢していたんですね。むさぼるようにデザートを食べる姿を見て、こんなに我慢していたのかと、胸を突かれました。ちょうど2000年のことです。
池田
デザートに殺到…。ショックですね。
川村
それと同じ頃に、ソーシャルスキルトレーニングというのを勉強して取り入れ始めました。ソーシャルスキルトレーニングとは、社会で生きていくのに不可欠な対人関係のスキルを学ぶトレーニングのことです。その一環で、病気になって損したこと、得したことを、子どもと親のグループに分かれて話し合ってもらいました。思いついたことを書き出していき、その中からトップ3を選んでもらうと、それがほとんど食べられないことへの恨みつらみばかり…。注射するのが嫌だとか、血糖測定しなければいけないとか、そんな話は一つも出ないんです。
一方、母親のグループは、注射や血糖測定しなければならないのがかわいそう、父親グループでは将来の就職・結婚・合併症の不安などが並びました。普段見ているところがみんな全然違うんですね。病気になった本人たちにとっては、食べたい時に食べられないことが何よりもつらいんだということを、キャンプでの一件と併せて思い知らされました。
その後、2001年に超速効性インスリンが日本で発売され、関連するアメリカの文献の中に出てきたのがカーボカウントです。そこでアメリカの本を取り寄せて勉強を始めました。炭水化物の量を計算してインスリンを調整するので、比較的好きなものを食べることができるこの食事療法を、ぜひ子どもたちに覚えてもらいたいと思ったのです。それからカーボカウントを多くの人に知っていただくために、全国各地で勉強会を行いました。
池田
先生の勉強会は、患者さんだけでなく、家族や医療従事者の方も、みんなが広く受けられるのが素晴らしいと思います。
川村
始めた当初は、「カーボカウントを知っている人は?」と聞いても、パラパラとしか手が挙がりませんでしたが、今では知らない人が少なくなってきています。

VOL.3 へ続く >>

川村 智行(かわむら・ともゆき)
プロフィール
医学博士。大阪市立大学大学院発達小児医学教室講師。1991年大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、カナダ国立カルガリー大学ジュリア・マックファーレン糖尿病研究所研究員を経て2007年より現職。専門は小児内分泌(糖尿病)、小児腎臓病。糖尿病の食事療法であるカーボカウントの第一人者として、その指導と普及に取り組んでいる。小児糖尿病サマーキャンプ(日本糖尿病協会主宰)には毎年参加。著書に『糖尿病のあなたへ かんたんカーボカウント―豊かな食生活のために』(医薬ジャーナル社)などがある。

「調剤薬局ジャーナル」2019年3月号より転載

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