セルフメディケーション シリーズ 対談:地域医療を支える薬局を目指して- 5.バイタルサイン講習会から始まった「日本在宅薬学会」

セルフメディケーション シリーズ 対談:地域医療を支える薬局を目指して- 5.バイタルサイン講習会から始まった「日本在宅薬学会」

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連載vol.5.バイタルサイン講習会から始まった「日本在宅薬学会」

狭間研至先生 (医師 / ファルメディコ株式会社代表取締役社長)

連載vol.5.バイタルサイン講習会から始まった「日本在宅薬学会」

池田
前回のお話では、従来型の薬局から次世代型の「3.0」へ変わっていかなければならないと思っていらした時に、在宅訪問の話があり、積極的に薬局経営に取り入れたということでしたね。
狭間
そうです。それからどんどん在宅訪問の営業をかけていきました。ダイレクトメールの書き方などを勉強して、ファックスを送り、最初は飛び込み営業をやっていたんですが、薬局だと名乗った時点で追い出されることもあって……。そこでアポを取る営業をやらなければと思い、「特別養護老人ホームの医薬分業を成功させる7つのステップ」という小冊子を自分で作りました。オファーをいただくきっかけになればと思ったんです。「冊子が欲しい人は連絡ください」とファックスを送っているうちに問い合わせが入るようになり、それで説明しに行き、成約をもらう──こういうことを繰り返していました。
池田
DMの書き方を勉強するとはすごいですね! 柔軟に理系脳と商売脳を切り替えられる人はなかなかいないと思います。
狭間
そうでしょうか(笑)。「あなたの施設の看護師さんがやめる本当の理由をご存知ですか?」という切り口が、興味を引いたようでした。当時、患者さんと向き合いたいのに、薬の仕事ばかりで疲れ果てている看護師さんがたくさんいたんですよ。薬の仕事を適正にアウトソーシングできていないのが問題で、「それは薬局が全部できることです。お任せください」と呼びかけました。
池田
その「看護師さんがやめる本当の理由」って、キャッチコピーとして、すごく気になりますね(笑)。
狭間研至先生
狭間
まず一歩を踏み出したという実感はありました。今まで薬を持っていくだけだったのを、血圧の薬を持っていった時には血圧を測ろうというところから始めました。当時、薬剤師の間では人の体に触ってはいけないと言われていたんです。違法だと思っている人もいたくらいで……でも、調べてみるとそんなことはなく、続けていこうと。それで、とてもいい結果が出ましたので、これを一般に公開しようと考え、「薬剤師のためのバイタルサイン講習会」を開いたんです。すると、富山や山形など遠方からも申し込みがあって、すぐに枠が埋まりました。
池田
やる気のある人たちが集まったんですね。それが日本在宅薬学会を作られたきっかけでしょうか?
狭間
そうなんです。そこで、バイタルサイン講習会の主催団体として「在宅療養支援薬局研究会」を作りました。地域医療で本当に求められる薬剤師を育成するための、さまざまな講習会やセミナーを主催する団体です。その数回目のセミナーの時に『日経DI』から取材を受けて、記事になったんです。とたんに申し込みがどっと増えて、半年待ちの状態になったこともありました。医療機関の人もたくさん受講しに来てくれましたし、これは薬局だけの話ではなく、これからは病院も患者さんのお宅を訪ねる時代が来ると思いました。このような経緯があって、「日本在宅薬学会」に名称変更しました。
池田
バイタルサイン講習会の効果は絶大だったというわけですね。
狭間
初めは、いろんな人にやり方を教えたら、うちの薬局に人が来なくなるのでは、と心配する社員の声もありました。また、講習会に来てくれた人からも、「なぜライバルでもある別の薬局の薬剤師にこんな大事なことを教えるんですか?」と聞かれることもありました。そのたびに、新しい医療の環境を作りたいと思ってやっているから、自分のところの薬剤師だけではなく、みんなができるようになってほしい、そして地域医療を支える仕組みをみんなで作りたいと説明しました。なかにはすごく共感して、うちの薬局に転職してきた人もいました。

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狭間研至(はざま・けんじ)
プロフィール
ファルメディコ株式会社代表取締役社長、医師、医学博士。1969年大阪生まれ。1995年大阪大学医学部を卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院にて外科・呼吸器外科診療に従事。2000年大阪大学大学院入学、異種移植をテーマとした研究・臨床を行う。2004年より薬局経営に従事。現在は医師として診療を行いながら、一般社団法人日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育や薬学教育に携わるなど、新しい医療環境の実現に向け幅広い活動を行う。著書に『薬剤師3.0 地域包括ケアを支える次世代型薬剤師』(薬事日報社)、『薬剤師のためのバイタルサイン』(南山堂)など多数。

「調剤薬局ジャーナル」2019年11月号より転載

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