日本経済大学経営学部長兼同大学院教授 赤瀬氏氏

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連載Vol.3.オンライン時代に求められる「対人業務」とは

日本経済大学経営学部長兼同大学院教授 赤瀬氏氏

連載Vol.3.オンライン時代に求められる「対人業務」とは

池田
コロナ禍で受診回数が減り、調剤薬局も経営的に厳しい局面に入ってくるのではと思います。先生のお考えをお聞かせください。
赤瀬
今一度、調剤報酬改定をしっかりと読み解いていただきたいと思います。例えば、今回着目すべき点の1つであるオンライン診療ですが、オンライン診療がある程度普及すると、次は電子化された処方箋のウェブ上でのやり取りや、オンライン服薬指導につながることは明白です。すなわち、診察から薬剤の受け取りまでオンラインで完結する仕組みが想定されているわけです。このことは、令和2年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」にも書いてあるので、実現に向けて動いていくと思います。
一方で、高齢者にとってオンラインは使いやすいのかということを考える必要があります。今後、家電並みに簡便かつ安全に使用できるシステムが登場すれば、爆発的に普及する可能性もあるでしょう。そのときに求められるのが服薬指導の先にある「見守り」だと、私は考えています。現在、普及している見守りサービスは緊急時対応のみで、日常対応が十分ではありません。しかし、地域包括ケアシステムの本質は地域住民の生活ですから、身近な医療従事者が、在宅での療養生活における栄養状態や睡眠を包含した日常生活を見守ることが地域包括ケアシステム成否のカギになるのではないでしょうか。
薬局による見守りサービスは、一人暮らしの高齢者と離れて暮らす子世代に大きなニーズがあると、私は考えています。皆さん、ご自身を振り返ってみていただきたいのですが、親の主治医の顔や治療内容をご存知でしょうか?たぶん「よく知っている」と自信をもって答えられる子世代は少ないのではないでしょうか。そういった子世代に対し、「お母さんは服薬状況も症状も安定しています。血糖値も血圧も問題なさそうですね」と伝えてもらえたら、離れて暮らす子世代の安心感や満足度はグンと上がると思います。全国6万軒の薬局を社会的インフラとして使えば、できないことはないと思います。
赤瀬朋秀氏
池田
それは素晴らしいサービスですね。その実現のために今のうちにやるべきことは何でしょうか?
赤瀬
対人業務への速やかなシフトが望まれます。例えば、調剤を機械化する、パートに任せるなど薬局内での「薬剤師の負担軽減」を行い、常勤の薬剤師は地域に出る「薬局内分業」を私は提唱しています。地域で何をするかは、当該地域で御用聞きをしながら徐々に集約させればよいのです。最初は、服薬状況の確認や残薬の整理から、そこから治療や健康に関するニーズの把握をすることによって、薬剤師にできることは何かわかってくるはずです。
在宅患者のニーズをつかみ、自分の知識やスキルで解決できることを模索するうちに、やるべきことが見えてくる。さらに、同じ地域で働く他の医療従事者とのネットワークも構築できて、地域のチーム力が上がっていく。すなわち、「対人業務」における「人」とは患者や地域住民だけではなく、他の医療従事者や患者の日常生活を支える多くの事業者など、全方向に向かう、これが今後求められる対人業務だと考えています。
小さな薬局であっても、対人業務の成果を数値化したり、それを根拠にして報酬を付ける仕組みを提案したりしてほしい。そのためにも今は厳しい経営状況をぐっと我慢して、対人業務を実践していただきたい。経営学を教える立場から申し上げると、マーケットの分析とニーズ調査をきちんと行うこと、そして薬局がやるべきサービスを充実させる、さらには社会に発信する仕組みが必要です。

VOL.4 へ続く >>

赤瀬 朋秀(あかせ・ともひで)
プロフィール
日本経済大学経営学部長、同・大学院経営学研究科教授、博士(臨床薬学)、MBA(経営学修士)。日本大学理工学部薬学科を1989年に卒業、慶應義塾大学病院での研修を経て北里大学病院薬剤部に入局。2000年に同院を退職し、2003年に日本大学大学院でMBA、北里大学で博士号を取得。同年に社会福祉法人日本医療伝道会総合病院 衣笠病院に入り翌年から薬剤部長。2006年に済生会横浜市東部病院薬剤部マネージャー、2012年に日本経済大学大学院教授となり2016年に経営学部長に就任。明治薬科大学(客員教授)をはじめ、複数の大学で教鞭を執る。著書に『あと10年正念場の保険薬局』、『薬局経営読本』(共著)など、多数。

「調剤薬局ジャーナル」2021年1月号より転載

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